創立40周年 提言
創立40周年
日本青年会議所 医療部会 提言
〜『安心と信頼の医療による活力ある日本』〜
はじめに
医学が科学的に急速に発達したのは、20世紀後半に入ってからであると言える。それまでは占いや祈祷に類似した時代であり、その後、伝染病との闘いの中で抗生物質の発見などを契機に、劇的な治療の進歩がみられた。
現代社会に入り、様々な生活環境の変化による生活習慣病の出現や難病に対応すべく先端医療の技術進歩など、医療の世界は目覚しい発達をみせている。
現在、私たちを取り巻く生活、文化、教育、経済状況が、新たな転機を迎えていることは明確な事実であり、我々が従事する医療界もまた同様である。
1961年に導入された国民皆保険制度は世界的にみても、トップレベルの平均寿命の高さ、乳幼児の死亡率の低さと合わせて、そのコスト面においても高く評価されているものである。
その反面、現在の国民皆保険制度は右肩上がりの経済成長を前提とした制度であり、その理想形はまさに望ましいものであるが、人口の年齢比率構造の変化や経済情勢に左右されやすく、医療費財源確保が難しくなった昨今、目先の医療費抑制の為に診療報酬や薬価改定に終始しているだけでは、予測の付かない経済情勢や国民の疾病構造に対応していくことが困難となっている。
これまで、幾度と無く抜本的な改革が叫ばれているが、決定的な改革には到っていないのが現状である。
日本青年会議所 医療部会 提言
本年、日本青年会議所 医療部会が創立40周年を迎えるに当たり、将来の医療へ我々が考え得る医療システムの理想像に積極的に取り組むものとして政策提言をする。
我々、医療部会員は、奉仕・修練・友情を三信条とする青年会議所に所属し、医療・福祉の現場において、第一線で活躍しているものである。其々の活動、また所属する業種団体からの提言とは異なり、同じ業種にいながらも異なる専門分野で活躍する構成メンバーであることに大きな意義がある。
また、単に目新しさを求めるのではなく、質の高い医療の安定供給を目指す為には、「公正な医療」を求めながらも「効率」も同時にバランスよく追求する必要がある。
我々は『医療による社会保障は、社会における資本である』と捉え、健康に対する最低限の生活水準保障をすることは、個々人の社会・経済活動、文化活動等をしっかりと支え、新たな活力を生むと考える。
医療人が医療享受者に提供することは、クオリティー オブ ライフ(以下QOL)の向上を目指した、医療的な『コンサルティング』と『マネジメント』である。
そして提供する医療・福祉が、国民の生活へ「安心」と「信頼」をもたらすことが社会保障制度の理想であると考える。
これまで述べたことを実現するために、4つの提言を柱とした6つの施策からなる『安心と信頼の医療による活力ある日本』を提案する。
提言1【質の高い医療供給】
質の高い医療供給を継続することとは、とどのつまり、個人に最適な医療を提供することと言える。そこで我々は「医療・福祉教育の充実」と「オーダーメイド医療の確立」を提言する。
医療に限らず、供給側と享受側の間には相互理解が必要不可欠であり、特に“命”に関わる事柄であることから、その重要性は言うまでもない。また、双方は「権利と義務の履行」をしなければならない。
まず、教育に関してであるが、義務教育の中で社会保障制度の基礎知識を学習し、医療・福祉現場体験をプログラムとして組み込むことが必要である。こうした教育は倫理観を高め、医療現場の理解を深めるものである。このような環境は、これまで以上に優れた医療従事者を生み出すことが予測され、医療の質向上に大きく寄与するものであり、今後、確立される医療技術の適正な応用をする上でも欠かせないものである。
また、医療従事者は高い医療技術は勿論のこと、様々な面において、知識と見識に優れた人材であることが望ましい。これは、医療コンサルティングをする上で非常に重要な要素になるからである。そこで医療教育施設では、医学以外の教育にも力を入れ、信頼される医療人育成教育をするべきである。
同時に、人員不足による医療事故が問題となっていることから、医療従事者の増強が望まれる。特に緊急医療や小児医療、遠隔地医療に携わる人材の確保が困難なことは、国民生活に不安を与えるものである。こうしたことから、医療教育施設の定数の適正化を始めとし、人材の確保を教育現場からサポートする必要がある。
オーダーメイド医療の確立のためには、医療機関の医療機能、専門分野、診療実績などの情報のデータベース化及びネットワーク化を完備しなければならない。それと合わせて、個人の健康情報もデータベース化を進める。
また、一つの医療機関が高度な最先端医療から社会的入院に至るまで、全てを担うことは困難なことから、現在の公的医療保障によるフリーアクセスを維持しながらも、医療機関の機能的な分担を徹底し患者から見た医療機能による選択を判りやすいものとする等、地域のチーム医療を効率的に行い社会全体でサポートする体制を推進する必要がある。
そこで先に挙げたネットワークを活用し、透明性ある医療情報を統括する機能を持つ第三者機関として「医療マネジメントセンター(仮称)」の創設を提案する。
このセンターの持つ機能として以下のことが考えられる。
1)
医療機関の医療技術・体制を審査及び機能評価
2)
医療機関情報の統括並びに情報提供
3)
医療データの分析、管理
4)
医療政策のシンクタンク機能
各医療機関はこのセンターのサテライト機能を有することにより、例えば電子健康保険証や電子カルテ等の個人の各種健康情報データと合わせて活用し、患者の相談に応じて、どのような医療を何処で受けるべきかをマネジメント可能となり、各々の体質や病歴、遺伝情報に基づいた治療を行う等、個人に適正な医療、すなわちオーダーメイド医療を提供する体制を確立することが可能となる。
こうして行われた医療の結果を同センターにフィードバックすることにより一層有効な情報となる。例えば蓄積されたデータ分析は経験に頼った技術を飛躍的にボトムアップすることが期待される。また重複した検査の減少による医療費の削減、薬剤の服用歴や過去の副作用情報は患者の安全性を保護。更には緊急医療現場や僻地の医療への敏速な対応にも貢献し、総合的にみて医療の質向上に大きく寄与することになる。 またこれらのデータの蓄積は診療報酬や薬価など医療価格の設定や医療政策を作成する上でも大きな役割を果たすこととなる。
1−A 医療・福祉教育の充実
○
義務教育へ医療・福祉教育を組み込む
義務教育段階から、社会保障の基礎知識を習得させ、更に医療・福祉現場の実地体験をさせる。
○
信頼される医療人育成プログラムを構築する。
医療教育施設においては、文化、経済、法律、歴史、宗教等の教育を充実させ、ボランティア活動も推奨し、医の倫理観を持った医療人を育成する。
○
医療スタッフの充足
科学的技術がいくら進もうとも、現場においてはマンパワーに頼らざるを得ない特殊性がある。医療教育施設の定数を適正化し医療スタッフの確保に努める。
1−B オーダーメイド医療の確立
○
医療機関の機能的分担を徹底
○
医療機関の技術的情報公開の義務化
○
医療機関の各種情報のデータベース化及びネットワークの完備
○
個人健康情報の電子化を完備
○
健康保険による健康診断の義務化
公的医療保険による健康診断の義務づけをし、予防意識を高め国民の健康維持・増進を図る。
○
「医療マネジメントセンター(仮称)」(機能は上記参照のこと)を創設し、機能評価に基づいた透明性ある医療情報と個人の健康情報の統括及び管理
提言2【財政的安定に裏付けられた安心の医療制度】
医療による社会保障を充実させることは、国民が安心した生活を営む上で極めて重要であり、医療・福祉機関が十分な医療体制を整える為の安定的な財源を構築することは不可欠である。また、その財源の有効活用をさせる政策をとらなければならない。
医療制度改革といっても、これまで行われたような診療報酬の見直しや薬価引き下げなどの手法に頼るばかりではなく、長期的見地に立った制度を確立させる必要がある。
現在、国民一人当たりの医療費を対GDP比で比較してみると1位アメリカ14.0% 2位ドイツ10.5% 3位スイス10.2% 4位フランス9.7% 5位カナダ9.6% (1996年度参考)に比べると我が国の比率は7.2%と低く19位となっている。WHOが発表した各国の医療事情をシステムとして調査した評価が、日本は世界第一位である事と合わせて考えると、一見、効率よく医療が行われているかのように見える。しかし、これは少ない医療スタッフに慢性的疲労状態を強いている、過酷な勤務体制により成り立っているものであり、こうした勤務状況は社会問題化しつつある医療ミスの大きな要因となっている。このような現状を打開し十分な医療の提供に向けて、医療スタッフの適正な配備をするための財源の創出が強く求められる。
公的保険で保障される標準医療の適用範囲の見直しにおいては、適正な医療による社会保障は手厚くし、個人の希望により選択された治療との負担区分を明確化し、財源の有効利用を図る必要がある。
また現在、医療費は非課税であるが、医薬品や医療資材などの仕入れに対しては消費税が課せられているといった税制上の非整合性は、各医療機関の財政を圧迫するものであり、早急に改善されなければならない。
更には会計業務を積極的に導入し、医療経営の近代化を推し進め、医療機関としての経営の安定化を図る必要がある。
2−A 安定財源の確保と有効利用
○
国庫歳出に占める医療財源の適正化
国民の健康は国力の源泉であることから、国庫支給割合は公共事業と同様に重視すべきであり、国庫における支給割合を精査し医療費への適正配分を図るべきである。
○
医療の負担区分を明確化
○
税制の非整合性の是正
○
医療経営の近代化
会計業務の徹底と、ITの導入・活用により、医療現場の効率化と経営の安定化を図り、財源の有効利用とソーシャルコストの削減をする。
提言3 【世界No1の最先端医療技術立国】
我が国は最先端医療技術立国として、その技術によって国際社会への貢献を目指すことを提案する。
21世紀の医療分野で、もっとも期待されている治療法は再生医療と遺伝子治療である。移植医療を含む最先端医療の適正な運用は治療の選択性を広げ、QOLの向上など、人類に大きな福音をもたらすことになる。したがってこうした医療技術における基礎及び研究開発を積極的に進めなければならない。
これら最先端医療技術の研究・開発は、これまでのような個別研究では開発スピードに限度があることから、かねてから言われている産学官の連携による共同研究をしやすい環境を整え、国際的情報もスピーディに交換できるようにしなければならない。
さらに開発された技術を多くの一般の方々にも認知してもらい、研究開発の財源を創出し、技術の実用化を速やかに進める為に『最先端医療見本市(仮称)』を開催することを提案する。
この開発・実用化された先端技術をより有効かつ適正に活用し、無益な特許裁判などのトラブルを避けるため、外国法に精通した国際弁護士の養成が急務である。
また移植治療は拒絶反応に見られる医学的技術と倫理問題が障害となる。移植医療の技術進歩を加速し医療のひとつの選択肢として確立させるためには、「脳死」に対する国としての法的整備をしなければならない。
3−A 先端医療における技術、世界No1を目指す
○
医療マーケティングに基づいた研究・開発
医療マーケティングを行い、患者ニーズにマッチングした研究・開発を積極的に進める。
○
『最先端医療見本市(仮称)』の開催
○
先端技術の国際特許取得
開発された先端医療技術は侵害されないよう、国際特許を取得し適正かつ安全に普及・活用されるよう国際法に基づく管理をする。
○
国際弁護士の養成
各国における技術特許取得に対応、管理するには外国法及び国際法に精通した国際弁護士の養成は必要不可欠である。
3−B 移植医療に関する国の姿勢を明確化
「脳死」に対する国としての法的整備をし、移植医療の技術進歩を進め医療の選択肢としての定着を図る。
提言4【医療による国際貢献】
わが国の平均寿命の長さや乳幼児死亡率の低さにみられる、世界的に評価されている医療水準は、優れた公衆衛生と医療技術が基礎となっているものである。
発展途上国に対し、こうした知識と技術の伝達指導による国際貢献を行う事により、当該国の感染疾病などの罹患率を低下させることは健康水準向上につながり、国力の安定を図ることになる。
最終的には医療教育施設の設立を目指し、当該国へ医療の基礎を築き、我が国の医療教育施設と指導者を始めとした人的交流及び医療技術等の連携で医療による国際貢献を果たす。
4−A 発展途上国への公衆衛生及び医療技術の指導者の育成
○
当該国へ公衆衛生及び医療技術育成者の派遣
○
医療教育施設の設置へ積極的支援
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